ラブレス(桜木紫乃)

ラブレス

ラブレス

途中で止まらなくなって夜中までかかって読み終えた。作品の濃密さにただただため息。こういう作品に出会えることはあんまりない。
説明しづらい内容。死期の近づいた百合江という女性の一生を、彼女の娘とそのいとこの記憶を絡めながら描かれた作品。
百合江の人生を、彼女の娘たちが辿る、というのは正確ではない。作者目線での百合江の人生は物語の本流としてあり読者はそれを知っているが、百合江の娘たちはそれを知らない。百合江のことは、自分たちの記憶にある、あくまで百合江の一面だけだ。その距離は埋まることは無い。でも現実ってそうだよね。
そうして描かれる百合江の人生が、取り立てて波瀾万丈なわけではない、と思う。もちろん開拓地のとんでもない貧乏に生まれ育ったし、その後の人生も幸せとは言えず、苦労と不幸を背負った人生だったと思う。が、時代のせいと言える部分もあるし、最後は仲違いしていたとはいえ、実の妹は近くに住んでいたし、こちらも交流は薄れていたが娘もいる。彼女の人生は孤独だけではなかったはずだ。
そしてまた百合江自身も、特別な人間ではない。歌手に憧れて旅一座に入ったり、父親のいない子供を産んだりと、流されやすい一面はあったかもしれないが、身の丈はわきまえた人だった。きちんと働き、目の前のことはできるだけしてあげようという人だった。
ではなぜこの小説がこんなに面白かったのか?
それはひたすらにこの物語が「別れ」の物語であるからだと思う。何度も訪れる親との別れ、故郷との別れ、男との別れ、尊敬する人との別れ、そして何よりも身を切られる、子供との別れーーー。きっと人が生きていく中で、「別れ」ほどに痛みを伴うものが他にないんだと思う。だからそれはより印象深い。そしてその「別れ」を常に予感させ、実際に「別れ」を畳み掛けるこの物語は、ただひたすらに引きつけられる。共感を呼ぶ。
今のところ考えられるこの作品の魅力は「別れ」だが、また再読して考えてみたい。


脱線ですが、ちょっとね、タイトルが損してる気がしなくもない。読み終えてみるとこのタイトルも意味深に思えるのだけど、どうしても「LOVE」って付いちゃうと生っぽい恋愛小説をイメージして手に取る人が少なくなりそう。。。