エンジョイしなけりゃ意味ないね(朝倉かすみ)

エンジョイしなけりゃ意味ないね

エンジョイしなけりゃ意味ないね

相変わらずこの人の作品はどう形容していいかわからないのが毎回困る。しかもまた題材も地味! 地味な会社の地味なOLの地味な生活にスポット当てた短編集なんだもの。
そしてそれが面白いから、小説って良いなと思わされるのだ。
たとえばわかりやすい平安寿子の小説なんかは、現状は受け入れつつもそれでも前に進もうとするパワーが隠れてもしくはあらわにされている。そして絶対にそうとは見せない技術はあっても川上弘美江國香織の作品にも、そういうのは感じたりするんだよね。
朝倉かすみの作品は違う。どうしようもなく前を向こうとするパワーをしっかりと認めつつ、それでもそういうのをシニカルに見ている視点が同居している。
この短編集の主人公となるOL達の人生は本当に何もない。仕事で活躍するでもないし、私生活で男に傾倒して身を持ち崩すような馬鹿なマネもしない。ただ傍観者で、それに徹する。
だからといってそれゆえに「働く女性にとって共感しやすい物語」みたいなジャンルに押し込められたら困るな、とも思う。
わたしは盛り上がりも盛り下がりもしないこの小説を読んで、あぁ、生きるってこういうことだな、なんて思った。
「やりたい仕事をやる」ってまるでプロカバンダみたいに宣伝する社会のほうがずれてるんじゃないか。そりゃ「やりたい仕事をやる」のが出来れば良いかもしれないけど、誰も彼もがそうしたら成り立たない。「やりたい仕事をやる」のはそれだけの人並み外れたパワーと才能と継続力のある人間しか出来ないことで、そうじゃない人間はそれなりの仕事をこなして、それで良いんじゃないかと。
働いて、それで自分やその家族を養えればそれで十分だと、そういう基本ラインを社会は無視しているような感じがする。選択肢があるのは良いことだと思うけど、夢を見させるのも良いことだと思うけど、ね。
作品を説明できないから、ホラどんどんと話がずれて行く、って人のせいにしてみます。
とりあえず『蟹工船』よりこっち読んどけば?なんて無責任に思います。仕事はたしかに大事だけど、ただ人生のツールの一つだと思えるから。