テンペスト 上 若夏の巻 テンペスト 下 花風の巻(池上永一)

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

えー、『シャングリ・ラ』以来ですか? 待たせたぶんだけ分厚くなって帰ってきましたということでしょうか。上下巻の大ボリューム絶賛発売中であります。
乱暴に説明すれば、日本で言えば江戸末期、激動の琉球を舞台に娘として男として宦官として政治家として母として、生き抜いた一人の人間の物語、でしょうか。
この人は本当に読ませるね。分量が気にならないどころかもっと読みたいと思わせる魅力がある。
だけどちょっと消化不良の感があったのも事実だ。全体のバランス計るためか、池上作品ならではのはっちゃけた部分が結果的に惨敗している。いわゆる大奥の闘いあたりは顕著にコミカル路線を狙っているのだけど笑えない。勾玉云々の、これまでの池上作品ならもっと重要視されただろうエピソードも脇に追いやられてしまっている。それで作品の質が上がったかと問われれば首を傾げる。リアルとファンタジーの、その噛み合わせに関してなら少し悪くなったのではと思わないでも無い。
一方で、過去最長の物語であるにもかかわらずテンポが良い。前作のシャングリラは局地戦ならではの盛り上がりだったにも関わらずよりにもよって後半にグダグダを感じたものだが、今作は何十年という時間幅をものともせず要所要所をつまみ食いさせることで最後まで読み手の心を掴んで離さない。
というわけで私的にはプラマイゼロに近いが、国内エンタメ小説ジャンルでは暫定ベスト5に入ったまま出て行く様子も無い。それだけ面白いってことだ。でも希望を言わせてもらえば、次は短編を読みたい。