ハイドラ(金原ひとみ)

ハイドラ

ハイドラ

自分らしいってどういうことだろう。素直に生きるってことだろうか。おいしいものを食べたら幸せな気分になって、嬉しいことがあれば笑って、世界が平和になればいいなんてなんとなく思う。たぶんそういうことなんだろうと思う、「1+1=2」の世界では。
専属モデルである早希は、同棲しているカメラマン新崎の言動に日々怯えて生きている。暴力を振るわれるわけではないが、新崎に見捨てられることが何より怖い早希にとって、仕事でもプライベートでも世界は新崎を中心にまわっていた。仲の良い友人にまで「だって早希、新崎さんが自殺しろって言ったら、しそうだもん」と言われるまでに。
そんな早希の世界に二人の男がするりと入ってくる。ひとりはリツ。早希はどこか自分と似た瞳と雰囲気を持つこのリツに、苛立と恐れを抱く。もうひとりの松木は、光のもとに引き入れるように、早希を自分の世界へすばやく連れ出した。「1+1=2」の世界へ。
ラストページまで読んで、もっと楽に生きればいいのに、と一瞬思いかけて打ち消した。わたしの思う「楽な生き方」が、この主人公にとって「楽」ではないからこその、このラストなのだから。「1+1=2」の世界では生きられない自分こそが、早希にとって「自分らしい」と、噛み締めるように描かれるラストはなんとも切ない。
まだ『オートフィクション』とこの最新作しか読んでませんが、金原ひとみ、かなり好みです。近いうちに他の作品も読まなくては。