第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)(アゴタ・クリストフ)★★★★★

第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)

第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)

ついに三部作の完結編まで来てしまいました。こう来るか。
リュカかクラウスか、二人か一人か、本当か嘘か、国を捨てるか残るか……あまりに切なくやりきれない物語でした。サスペンスフルでぐいぐいここまで読んできたけど、ラストまで読んで胸に広がる哀しみはあまりに大きいのだ。
著者はハンガリー生まれで祖国の動乱中に国を捨てた過去を持つ。亡命するということは、体をふたつに引き裂かれるようなものらしい。そしてその著者の経験こそがこの物語のすべてだ。二作目まで読んだ時は、とても質の高いエンタメだと思ったけど、三作目を読んでまた印象が変わった。戦争というあまりにも大きな力の前で、故郷を捨てるしかない、どうしようもない哀しみをあますとこなく描いた作品だと思う。著者は『悪童日記』は当初続編を書くつもりはなかったという。それも今となっては深く納得できるのだ。三作通してひとつの物語とも読めるけど、すべては一作目に詰まっていたとも読める。でも三作目まで読んだからこそ理解できるっていうのもあるけどね。
とにもかくにも素晴らしかったです。同じくハヤカワepi文庫の新刊で出た『昨日』も読まなくては。

そしてハヤカワepi文庫ってなかなかいいんじゃないかしら。まだカズオ・イシグロアゴタ・クリストフしか読んでないけど、計6冊今のところハズレなし。絶版になった名作やまだ日本で紹介されてない作品などが収められているようで(ハヤカワepi文庫 - 読むまで死ねるかっ)、これからも注目していきたいです。