特盛! SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話(大森望/研究社)★★★★

特盛! SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話
結構ね、楽しみにしてましたよこの本の発売。
大森望という翻訳者を意識し始めたのはそんなに前じゃない。ちょうどわたしの本格的なSFデビューである『リメイク』(コニー・ウィリス大森望・訳)を読んだ頃と、多少の読書好きなら気にかかるであろう『文学賞メッタ斬り!』が始まったあたりが個人的にかぶったから印象に残ってるのか。「本の雑誌」を読んでるのでSF初心者にも関わらず名前だけは知ってたけど。この人の訳書はウィリスしか読んでないけど、結構好き。読みやすいけど、ちょっとアクがあって。「プチ悲鳴」とか「トンデモ」とか、ちょっと笑えるし。


本書のサブタイトルは<翻訳のウラ技、業界のウラ話>。翻訳家をめざす人たちにとってはありがたいほどに業界の裏側が親切に描かれている。でもわたしみたいな単なる読者にとっても楽しい一冊だ。


ちょっと前に出た金原瑞人氏のエッセイ『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』もかなり楽しく読んだのだけど、普段は黒子であるだけに翻訳者の実情というのはかなり興味深い。
そしてどちらの作品にも共通してることは、翻訳という職業の大変さを嘆きながらも、素晴らしい海外の作品を自分の手を通して国内に紹介することに何よりもの幸せを感じてるということがにじみ出ているあたりだろうか。そこらへんは特に職人フェチなわたしの心をくすぐる。


タイトル通り、この本は<SF小説>の翻訳をしたいという人こそ役立つエッセイ。ハンパな知識でSF翻訳の世界に入ってくるなと言わんばかりだけども。でもね、そりゃ素人読者のわたしもわかるよ。(多分)サービス満点に翻訳されたものを読んでるにも関わらず「アンタ何言ってんの!??」って逆ギレしそうな時があるもん。イーガンとかさ。著者レベルの知識は必要ないとはいえ、それを理解しようとするバイタリティーと(オタク基準で)最低限の知識は翻訳者にとって必要不可欠だよね。そしてそのSF知識+アルファ(翻訳者という仮面をつくれるほどの柔軟性)を持ってないと勤まらないだろうなと思う。


とにもかくにも、多少でも翻訳モノを読む人なら、絶対読んで損ナシな一冊ですよ。
20年近く昔に掲載されたエッセイから順に組み込まれてるので、時代の変化も感じられて興味深いし。素人目線としては、そういえばシドニィ・シェルダン超訳ってあったなぁ、なんて。
金原氏の『翻訳家じゃなくて〜』は翻訳技術に関するベーシックなネタが多くて、門外漢なわたしからしてもとても興味深いネタなんだけど、こちらはこちらで時代とともに移り変わる様々なSFネタや翻訳ネタがたっぷりで、まとめて読めば門外漢ながらもその世界と時代にちょっと関われたようで楽しいのだ。