虹とクロエの物語(星野智幸/河出書房新社)★★★★★

虹とクロエの物語
この人の作品を読むのは初めて。というか最近まで星野智幸という作家の存在を知らなかったんだけれども。今書店に並んでる「文藝」がこの人の特集だったのでたまたま立ち読みしてちょっと興味を持ったところ、ちょうど新刊が出てたので挑戦してみました。
結論から言うと久しぶりに、読み終えてしまうのがもったいない、と思える作品だった。
河原でサッカーボールを蹴り合うことが何よりも特別な時間だった二人の少女、虹子と黒衣。そして<吸血鬼>の血を残さないため、無人島に一人で暮らす少年・ユウジ。3人の鮮やかな想い出と、その二十年後が静かに描かれる。
依存。あまり肯定的な意味では使われないけど、誰でも大なり小なりほかの誰かに依存しているだろう。子供はもちろん親に依存するし。恋人に依存する人も多いだろう。そして十代の女の子の多くは友達に依存している(と思う)。
虹子と黒衣は二人で完結した世界を持っていた。二人でボールを蹴り合い、二人しか理解できない言葉をもって、二人の世界と、それ以外のすべての世界を、完全に切り分けた。二人の時間を<別格>に位置することで、その他の時間をやり過ごしていた。ちょっとしたほころびですべてが崩れるほどに、二人はお互いに依存していたのだ。
一方のユウジは、吸血による依存が忌み嫌われるために幽閉されていたにもかかわらず、たまたま島を訪れた虹子と黒衣に出会ったことによって、皮肉にも依存による苦しみを覚えてしまう。
そして二十年後…虹子とクロエはリスタートを切るために再び、ユウジの島へ向かう。
ここで描かれる<胎児>は二人のなかでそれぞれフリーズしてしまった感情の一部? 長いこと見て見ぬ振りをしてここまで来たけど、改めてその存在に気付いて、もう一度すくいあげようとするラストはとても前向きだ。
素晴らしい作品でした。


※関係ないけど、サッカーボールを蹴り合う、という行為になにかわかりやすい名前はないのだろうか。<キャッチボール>みたいな。