ポーの話(いしいしんじ/新潮社)

ポーの話
二年ぶりの書き下ろし長編ってことはもしかして『プラネタリウムの双子』以来の長編ってことなのかな? わたしが初めて出会ったいしいしんじの作品が『プラネタリウム〜』だから、それから二年経ったってことね…。

太古から岸辺に住みつく「うなぎ女」たちを母として、ポーは生まれた。やがて、稀代の盗人「メリーゴーランド」と知り合い、夜な夜な悪事を働くようになる。だがある夏、500年ぶりの土砂降りが町を襲いー。
いしいしんじが到達した、深くはるかな物語世界。2年ぶり、待望の書下ろし長編。善と悪、知と痴、清と濁のあわいを描く、最高傑作!

好きな作家の新刊が出ればその日のうちに買って読むのが私の常なのだが、いしいしんじの作品だけはそうならない。山積みの仕事に背を向けちょっとどきどきしながらでもやめられずに読むとか、移動中の時間に読むとか、そういうせわしない時間はおろか、ちょっとゆったりできる時間があっても忙しい期間であれば読む気がしない。この人の作品は、「読者を選ぶ」というのではないけど、気持ちに余裕があるときしか「読ませてくれない」のだ。
本書の主人公・ポーは、両生類に近い性質を持つ人間。自分を育ててくれた「うなぎ女」たちから離れ、様々な人間…天気売りやネバーランド、犬じじ、鳩厩舎のダンナと奥さん、そして海底の娘たち…に出会い、人間の「心」を刻まれていく…。
たくさんのエピソードのなかで、ぐっとくるエピソードもたくさんあって、やっぱ読んでよかったなぁとふぅっとため息をつける。生きること、死ぬこと、そして他人とのつながり…いろんなことがぎゅっと詰め込まれた作品。とても良かったです。
余裕ないときに読ませてくれないという点では梨木可穂も似てるな…。