Book(21-23)

象を洗う
象を洗う佐藤正午岩波書店
この人のエッセイの何がこんなに面白いのだろう、と気になる。ひとつ思いつくのは、どう転んでいくかが予測できない、という面白さ。日常生活をふんだんに連ねながらも文章に無駄が無く、むしろそれらで覆い隠した中にきちんとテーマに沿ったオチがある。そうなってくるとエッセイといえども、それぞれがショートストーリーに近い独自性を持って、読むものを引きつける。作家のエッセイも最近はそこらのタレント本と変わらないようなものがたくさんあって辟易してたなか、こういう「仕事」してあるものを読むと新鮮に感じてしまうのかも。


メリーゴーランド
メリーゴーランド荻原浩/新潮社)
昨年出版されたもので気にはなってたんだけどあまりにも話題にならないので買い控えてた一冊。ブックオフで購入。
世間の風評はあてになりませんね。面白いじゃないの。というより荻原ワールド全開!ってかんじだからファンとしてはひいき目に見ちゃう。デビュー作あたりを彷彿とさせるような笑いありドタバタあり涙ありの物語だ。
主人公の啓一は東京で数年働いた後、地元に戻って公務員になった。結婚して子供は二人、民間にいた頃に比べると驚くほどにヒマな職場だが、総じて人生は順風満帆―のハズだったのだが、「アテネ村リニューアル推進室」に異動になったことから苦難の日々が始まる。アテネ村は市がつくった第3セクターのテーマパークだが、金に飽かせてつくった無意味な出来で、当然入場者は年々減少し大赤字。しかも運営母体は役人の天下り先。頭にカビの生えた連中を相手に、この意味不明なテーマパークを建て直すことはできるのか!?流されちゃえば楽なのに、どこかでそう思いながらも反発し真剣に取り組んでしまう啓一の葛藤がじんとくる。そして一年に一度のスペシャルイベントに向けて物語は急速に進んでいく。
ナルシストなプランナー・沢村、啓一のSOSに喜び勇んでやって来た劇団の座長・来宮土建屋のどら息子・シンジなどの個性派脇役も見せ所たっぷりで、一気に読ませる。楽しかったー。


ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)
ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)笹生陽子講談社文庫)
やたら暑い夏、小学校6年生の桃井は友達と「階段落ち」ゲームをしていて怪我をしてしまう。しかも危険なゲームをしていたと学校にばれて夏休み中プール掃除をすることに―。そして「ぼくらのサイテーの夏」が始まる。
読み終わって、ふうっとため息をついた。いい作品だ、これ。宝物みたいに「サイコー」の夏だよ、と自称ハードボイルドな少年に向かってつぶやく。それぞれにちょっと面倒な家庭事情をかかえながら、さっぱりと付き合う桃井と栗田の関係を軸とした物語なのだけど、すべての登場人物に対するまなざしが優しくて、ほっとする。できれば真夏に読みたかったなー。