Book(3)

みんな元気。
みんな元気。舞城王太郎/新潮社)
過激な設定と過剰な言葉で覆い隠して、その実は普遍的な「人間の本質」みたいなもんをテーマにしてて、そのギャップが作り出す個性的な世界と、卓越した言葉のセンスが、やっぱり舞城王太郎だなあ、と思う。
この新作は短編集。これを読んで確信に近くなったけど、舞城王太郎はわたしと同世代だ。宮崎駿の影響を色濃く受けてる世代だ。ちょっと前に「山ん中の獅見朋成雄」を読んだときは「千と千尋の神隠し」っぽいと思ったんだけど、今回はそのものずばり「我が家のトトロ」という題名の短編が収められてる。
いきなり会社を辞めて脳外科医になるために毎年東大を受験して毎年すべってばかりいる男から見た、自分の妻と娘の話なのだけど、浪人父親のせいで学校でいじめられてた娘が「トトロを見た」と言い張り、それを心配した妻が娘とできるだけ一緒にいようとするんだけど妻まで「トトロを見た」と言い出し、トトロって何なんだよ、トトロはいったい何を象徴してるんだよと、必死に男は考える。この短編がすごくいいのだ。人間は希望とか理想とかを常にたくさん持ってて、現実はそう簡単ではないけど、でもそうやって生きてるんだって今更誰もいわないようなことことが、舞城王太郎の手にかかるとなんか新鮮に響いてくる。
このほか、ソファが気持ちよくて半年間も引きこもった親父と学校を襲う予定をノートに書き付けて怪しまれる息子の物語「スクールアタック・シンドローム」もよかった。