Book(23)

黒と茶の幻想 (Mephisto club)
黒と茶の幻想 (Mephisto club)恩田陸講談社
40歳を目前にした同級生4人―利枝子、彰彦、蒔生、節子―がひょんなことから鹿児島のY島へ旅行に行くことになった。それぞれが家庭を持つ身、「日常」を離れた旅行にしようと、この旅行をナビゲートする彰彦がある提案をする。それは『美しい謎』を提供すること―。美しい自然の中を歩きながらそれぞれがもちよった『美しい謎』について語り合い、「安楽椅子探偵」のように想像でその謎を解き明かそうではないか。ミステリ好きの彰彦らしいその提案に半信半疑だった残りの3人は、実際に旅のなかで非現実的なこの遊びに夢中になり始める。雄大な自然の中、そしてホテルの中で交わされる会話と過去の記憶が4人それぞれの視点から描かれる。
夜のピクニック』では夜通し歩き続けるという高校行事「歩行祭」にてひたすら歩き続ける時間の中で、二人の高校生につながる「秘密」とそれぞれの心情が丁寧に描かれていた。この作品も同じ系統といえる。「非日常」におかれた登場人物たちが、過去の記憶に関する秘密を抱えながら「現実」をともに過ごす―。
しつこいようだけど、この人の作品好きだなあ。実際の事件よりも「記憶」や「過去」にサスペンス性があふれてる。何も起きないのに、怖い。こういうのが一番すごい。