Book(20-21)

魔術師 (イリュージョニスト)
魔術師 (イリュージョニスト)ジェフリー・ディーバー文芸春秋
ずいぶん楽しみに待って買ったが、電車の中や仕事に中断されるような状況では読みたくないなと、今日まで待っていたもの。
今回の敵は魔術師。緻密な犯罪者に手品師のような技術を組み合わせたらどうなるか…。一分以内に変装やピッキングができる犯罪者。これはある意味で最強の最高の犯罪者ではないか。これが映像であったなら『ミッション・インポッシブル』のようにCGに頼った安易な変装にしてしまうだろうが、小説だからこそリアリティを追求し、現実でもその奇跡を起こすことができる人間―魔術師が選ばれた。
リンカーン・ライム>シリーズの中でも最高に演出性が高く、スピード感に満ちた作品であることは間違いないだろう。相手に追いつこうとして追い越され、捕まえたと思ってもするりと逃げてしまう―。ジェフリー・ディーバーは最強の<犯人>を生み出してしまったのではないかと思う。もちろんこの作品は文句なしに(というより過去最高に)面白いのだが、今後苦しむのではないかと勝手に想像してしまう。でもこのシリーズは続けて欲しいな、何としても。『悪魔の涙』のキンケイドがゲスト出演しているのもファンとしては楽しい。


庭の桜、隣の犬
庭の桜、隣の犬角田光代講談社
妻・房子―子供のころは「天才」と騒がれたほどの記憶力を持つが、それはとくに何にも生かされず専業主婦となった女、夫・宗二―どうしようもなく自堕落でアホな父親を反面教師に、人生にビジョンを持つことを重視する男。<ゼロとゼロを足してもゼロにしかならない>―そんな夫婦生活が微妙な危機に陥った時期を描いた長編。
相変わらずこの人の作品の登場人物たちは微妙にやる気がない。「まあ、そうしたいならそうでもいいよ」みたいなちょっと受身なタイプの人で、でも何も考えてないわけではなくて…、そういったかんじのキャラづくりは変わらず。
この人がすごいのは、人生の中でドラマチックな部分を題材に選ばないということだ。<恋愛>は一人の人生においてかなり突出してドラマチックな部分だ。でもそれは人生で5%も占めない。恋愛関係、夫婦関係という題材を取り上げるのなら、それこそ恋に落ちていた部分なんて時間にすればちっぽけなものだ。恋が終わった後のパートナーとの生活―本当はその時間をすごしている人が大半であるというのに、その部分について真剣に取り組まれた作品は何て少ないことだろう。恋した経験は誰にでもあり、恋物語は大多数に好まれる。でも恋が終わった後始まる、<他人には理解できない二人だけの甘さ>を知った人間でないと、角田光代の作品は読めないと思う。