Book(36)

倒錯のロンド (講談社文庫)
倒錯のロンド (講談社文庫)折原一講談社文庫)
作家志望のある男が有名な新人賞に向けて描いた原稿をめぐるトラブルをモチーフにした叙述ミステリ。
何とこの作品は折原氏が江戸川乱歩賞に応募して最終選考に残ったものらしい。ただ叙述トリックを駆使した異色な作品であるため評価が分かれ受賞を逃したようだ(江戸川乱歩賞だもんなあ)。以下解説(文・結城信孝)より。
≪専門家でも評価が分かれるぐらいだから、読者間においても賛否両論、好き嫌いが明確になってくるのは当然の話で、これはこの手のミステリ小説の宿命でもある。推理小説の新人賞をめぐる盗作と倒錯……が作品テーマになっている本編が読者の好みに合うかどうかのキーワードは、一にも二にも《叙述トリック》と称する小説創作上のテクニックにある。折原ミステリの命綱でもある叙述トリックについて、簡単に触れておきたい。本格ミステリと呼ばれるものの多くは、殺人事件の解明を論理的に進めていく作品形態になっている。作者が考案したトリックを犯人が使用し、読者がそれを推理する。多少のバリエーションはあるが、本格物と呼ばれるミステリの九割以上は、このパターンである。これに対して叙述トリックを使用したミステリとは、作品構成そのものがトリックになっているものを指す。ひとつの例として、一人称形式の作品で語り手である「わたし」が、最後になってじつは「犯人」であった……という形式。あるいは、いかにも女のように書かれていた「わたし」が男であったとか、さまざまなパターンがあるが、これは読者の錯覚や勘違いを利用することが狙いとなっている。つまり、トリックを成立させるためのファクターに読者の心理が入ってくるところに、このトリックのダイゴ味がある。俗にいうところの騙しのテクニックであり、作者によって巧妙に騙されることが快感という読者には歓迎されるが、肩すかしをくわされたことに腹を立てる人たちにとっては、まったく価値がない。「極端に評価が分かれる」というのは、このことである。≫
わたしは叙述ミステリの熱心な読者ではないので、歓迎も立腹もしない。トリックを見破ろう何てハナから考えてないからだ。ただ中には読者を欺くことにポイントを置きすぎてて、ラストまで読んで「ちょっと無理があるだろう」と思えるものもあって、そういうのは好きじゃない。
この作品は好きな部類。トリックどうのこうのを置いておいても、スピード感があって展開も面白く、単純に小説として読んでいて楽しい。だからラストのどんでん返しも生きてくる。「倒錯」シリーズとして他にも出てるので、全部読むつもり。