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ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫) ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)
ダーク・レディ〈上〉 (新潮文庫)
ダーク・レディ〈下〉 (新潮文庫)リチャード・ノース・パタースン新潮文庫
あれ?これ知らないぞ、と思って手にとって見たら何と文庫オリジナル。意外だなー。この人の作品だったら単行本でも売れると思うんだけど。ま、読むほうにしてみたらどっちでもいいから早く出してってことなんだけど。久々に読める新作で嬉しい。
伏線となる人間ドラマ、主人公の個人的過去がいや応なしに関わってくる事件展開など、パターソン作品らしさ満載で、安心して読める。しかしながら一方で驚いたことにこれまでのパタースン作品の最大の見せ場であったあの息詰まる法廷シーンがないのだ!筆者自身がもと弁護士でもあり、物語の最終局面に十分にページを割かれる緊迫感あふれる法廷シーンは非常に評価が高いのである。今作品では女性検事が主人公でありながら、政治的側面を多分に含んだ事件の解明に終始している。だからといってこれまでの作品に比べて決して精彩を欠くことは無い。十分に楽しめる。訳者によるとこれより後の未訳の作品もポリティカルドラマの比重が高くなっていくという。
法廷ドラマではどちらかがヒーローになりやすい。パタースン作品はこれまでも決して善悪を簡単に割り切ることはしなかったが、政治的ドラマに舞台を移すことによって、さらに難しくなる「真実」という微妙なステージにこの作家は踏み込んでいっているのだと思う。