老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))(小川一水/ハヤカワ文庫)★★★★

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
SFが読みたい!〈2006年版〉発表!ベストSF2005国内篇・海外篇』の国内編で一位だったこの作品に挑戦。この作家の作品を読むこと自体初めてです。
最近翻訳SFばかりかじってたせいか、久々に国内のSFを読むと「読みやすいなぁ〜」とホッとしてしまう。ま、最近は数をこなしてきたせいか大分楽に読めるようになったけど、二〜三年前までジャンルを問わず翻訳物が苦手だったことを思い起こせば、成長したとは思いますけどね。今は平行してイーガンの短編集も読んでるけど、面白いけど一気読みって感じではないし。あ、でもソウヤーとかだったら一日で読み切っちゃうな。自分にとってのハードルは、翻訳か否かではなく、読みやすいか否かなのか? ま、それもあるとは思うけど、ミステリに比べるとSFは途中で断念した翻訳モノの割合が高いからな…。やっぱ自分にとっては「翻訳SF」はまだまだ高いハードルです。

で、この短編集なんだけど、めちゃめちゃ楽しめるSFだった。

個人的にSF小説として、この作品の<位置>がとても好みだと思った。仮想のリアリティというハードルがあるとしても、SFってどこまでも飛んでしまうことが可能でしょ? そこを突き詰めてくと、その世界の住人である登場人物たちがあまりに読み手とかけ離れちゃって、感情移入できないんだよね。それでも面白い作品は確かにあるんだけども。この作品の主人公たちは、あくまで読み手である私たちとまだ近くて、しかもその人間的な部分をクローズアップした作品だから、SF初心者のわたしでも楽しめる作品だったんだろうと思う。

SF的な設定の<遊び>を十二分に利用しながら、ドラマティックな作品。「SFって楽しいもんだったよな」と再認識させてくれる物語だった。

SFファンが好きそうな表題作も良かったけど、果てない絶望からの再建を描いた「ギャルナフカの迷宮」、理想郷を目前に騙されることだけを拒否した男の物語「幸せになる箱庭」、ひたすら救助を待つ男の絶望と再生を描いた「漂った男」、4編ともとても楽しく読めた。

この人の他の作品も読まなければ!!!