悪魔の羽根 (創元推理文庫)(ミネット・ウォルターズ)

戦乱のバグダッドにて何者かに拉致監禁されたロイター記者のコニー。ほぼ無傷で解放されたものの事件について曖昧な証言に終始し、信頼する仕事仲間も避けてひとりイギリスの静かな田舎村に逃げ込んだ。拉致した男マッケンジーの再訪に怯えるコニーは、村で嫌われ者の隣人ジェスと不思議な信頼関係を築いて行くが…。
紛争地域では隣り合わせであったむき出しの暴力が唐突に、まるで別世界のような静かで美しい村に侵入する<悪>の現代性。時代や場所を選ばず、ただ自己の欲求のため他人を苦しめることに何の罪悪感も持たない<悪>の普遍性。マッケンジーとマデリーン、まったく異なるタイプではあるが同じく底の見えない<悪>に踏みつけられたコニーとジェスの視点には肩入れせずにはいられない。読者をぐっと引き込むわかりやすい物語の裏に描かれる、<悪>の多面性とその影響について読了後にも考えさせられた。
訳者解説に「大英帝国の新旧の植民地からおそろしいなにかがやってくるという物語がたびたび採用されて」いるホームズものからの着想があるのではないかとの指摘。なるほどー。


著者の作品は他に最近出た二冊しかまだ読んでないのだけど、どれもハズレなし。決して表面的な刺激だけでなく人間や社会そのものを描く深みがある。過去作も全部読みたい!

遮断地区 (創元推理文庫)

遮断地区 (創元推理文庫)