忘れられたワルツ(絲山秋子)

忘れられたワルツ

忘れられたワルツ

短編集。震災によって変わった意識そのものを忘れはじめてるわたしたちの物語。

ラストでさらっと読者と距離をとる、絲山さんの作品がほんとにほんとに大好きだ。

『恋愛雑用論』の日下部さんと小利口くんの会話が、『葬式とオーロラ』の付かず離れずの距離が、『忘れられたワルツ』の記憶の中の音楽が、愛しい。

イチオシは『NR』。中年男二人が電車に乗ってるうちに見知らぬ土地に連れられていく。なんてつらいノーリターン。ここでさらっと手を離される登場人物たちのよるべなさを思うと著者のSっぷりにニヤける。

それぞれに「死」との距離について考えさせられた。読み口は軽くてもさすがの絲山印です。

精神医療に葬られた人びと (光文社新書)

精神医療に葬られた人びと (光文社新書)

精神医療に葬られた人びと (光文社新書)

数年前のラジオでこの本が紹介されてたのを聞いて読みたいなと思いメモしてたものの、実際に書店で探すまでにタイムラグがあったのと新書なので入れ替えのサイクルが早いこともあって、本屋では見つけられなかった本書。最近ふと思い出して図書館で借りてみた。


本書は精神病等に入院した著者のルポを切り口に、精神病患者に対する社会の変容を的確かつ多面的に論じている。しかしまぁ読んでいて気持ちが暗くなるのよね。この国はどうしてこんなにも弱者に冷たいのかと。


本書でも触れられてる『ルポ・精神病棟』は15年くらい前に読んで、入院患者へのあまりの扱いのひどさに鳥肌が立ったのを今でも覚えてる。もちろん当時に比べたら今の患者を取り巻く状況は良くなっているとは思うけど、それでも最良の形にはまだまだ遠いのよね。


だけど本書を読んで感じたのは、精神医療に対する病院や国の問題点はもちろんだけども、それを受け入れる社会、わたしたち個人の考え方が一番の問題なのではないかということ。同じようにマスコミの報じ方もね。「精神病」は怖いものだと思い込んでる。ブツブツ独り言を言いながら笑っている人とは出来るだけ距離をとる。本当はそんなに怖がる必要なんてきっとない、でもそれを知るにはやっぱり直に触れ合うしかないのよね。だから現状にいたるまでの閉鎖的な医療方針ではどうやっても解決しない。社会になんて入れない。


心の病は決して他人事ではない。明日は我が身、我が家族の身。
だから患者が人間らしく生きられるように、そういう社会を目指さなくちゃいけないんだと思う。タテマエは失っちゃだめよ。

光

ひさしぶりの三浦しをんです。

                                                                                                  • -

島民誰もが知り合いで集落は二つしかない小さな離島、美浜島から物語は始まる。ある夜、近海で起きた大地震の影響で起きた大津波によって美浜島は壊滅状態に。難を逃れたのは中学生の伸之と美花、小学生の輔、輔の父親、灯台守のじいさん、民宿の客の山中の6人。そして救援活動中、山中は行方不明となる。それから十数年後、彼らの運命がまた絡み出した…。

                                                                                                  • -

さすがの語り口、面白いは面白いのよ。ほぼ一気に読めました。しかし…

まず、子どものころの罪を抱えたまま大人になった、もと子どもたちの物語ってのが既視感ばりばり。『永遠の仔』とか『白夜行』があるじゃない。しかもこの二作を超える驚きがないんだよなぁ。

登場人物もどこかで見たことのあるようなものばかり。島出身の唯一の少女が素性隠して芸能界で成功してるなんて松本清張の世界みたい。それに伸之の奥さんの南海子についても、専業主婦の孤独やコンプレックスを盛り込んでるんだけど、それももうほんとわかりやすすぎて萎えるのよ。

最大の気になるポイントはやっぱり大津波かなぁ。島全体でたまたま高台にいた6人しか生き残らないってのもだけど、そんだの大津波なら他の島や東京にも被害はあるだろうに、そういう記述はゼロ。ピンポイントで美浜島だけが被害にあったよう。だから津波が物語を盛り上げるためのアイテム化してる気がして、それが不快だったかもしれない。書かれたのは2006年なのでこのツッコミは意地悪かもしれないけど。

というわけでちょっと残念でした。好きだったんだけどなぁ、三浦さん。

石原慎太郎を読んでみた

作家としてはほとんど視界に入ってなかったので今でも書いてるの知らなかったよ!
この本を読むとちょっと読んでみたくなるのよね、石原慎太郎。まさかセカイ系を先取りしてたとは…。
しかしこの本で紹介されてるのを読んだだけでおなかいっぱいな気もする。
とりあえずこの評論はおもしろい!このコンビで村上春樹論とかやってほしいな〜

凶悪

公開前からかなり楽しみにしていた作品。公開から二日目の新宿とあって満席だったのが印象的。


ある程度は覚悟していたものの、冒頭のシーンからドン引きの凶悪さ。ピエール瀧は何なの!完全に人殺しの目をしてるんですが!!
とにかく前半はピエールに震えた。ピエールが一瞬黙るとハッと身構える。次の瞬間激高するのかヘラリと笑うかまったく読めない。その間が怖すぎる。そして体のキレの良さが怖い。動きがこっちが思ってるのから数秒早い。それだけで恐怖を感じるなんて映像じゃないと味わえないもの。


そして本丸の先生をリリーフランキーが演じたことでこの映画の成功は決まってたのではないかと思う。「ねえねえやっちゃおうよ〜」とぐふぐふ笑いながら彼が話しかけてきたらつい乗っちゃう気がする。そんな人たらしの才能。
実際、この映画でも屈指のヒドいシーン、じじいぶぅさん演じる老人を酒を飲ませて殺すシーンなんかも、あまりにリリー&ピエールが楽しそうで楽しそうで、思わずこっちも笑っちゃったもの。本当にヒドいシーンなんだけどね。
そしてラストで先生が見せる空っぽな瞳は忘れられない。何を訴えても届かない絶望的な距離感を感じた。


他の人の感想ブログを読んでると途中で席を立つ人もいた模様。わたしが見た回では誰も立たなかったけど、それはまあ公開二日目の新宿ピカデリーですから、みなさんそれなりの覚悟をしてきたってことなんでしょう…。でもこういう暴力的な描写に免疫がなくふらりと入ってきたお客さんなら気分が悪くなって席を立つ人がいてもおかしくないと思う。それだけの凶悪さ。凶悪な人間を見たい人だけ見ればいい。


そういえばピエールの弟分役を演じてた、小林且弥さんという役者さんがすごく印象的で気になってたのだけど、なんと松田龍平・翔太のいとこなんだそう(http://www.cinematoday.jp/page/N0057326)。今後の出演作もチェックしたい!


凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

これもかなり前に読んだので公開直前に再読。こんな雲を掴むような事件の裏付けを休日を使ってやってたのがすごすぎます…


映画が楽しみすぎて公開前に買ってしまったムック。原作著者と監督の対談はもちろん読み応えのあるレビューたっぷり。

そして父になる


期待して覚悟して劇場にまで観に行った。うん、覚悟してたとおりまあ泣いた泣いた。そして期待以上の作品だった。ひさしぶりにパンフ買ったよ。


赤ちゃん取り違え事件については、それだけでいろいろ語りたいことがある。だけどそれはおいといて。


失礼ながら福山雅治が役者としてこんなにハマるとは思わなかった。
福山演じる野々宮良多は自信たっぷりのエリートサラリーマン。「ひとつ屋根の下」で彼が演じた(初期の)にあんちゃんに近い、鼻持ちならないタイプ。彼はこういうイヤミな役をやるしかないんだと思う。このルックスで中身もいい人なんて気持ち悪い。あとはお馴染みガリレオ的な変人役。


そして彼の妻みどりを演じたオノマチ。カーネーションの糸子に代表される気の強い役のイメージが強いけど、本作においては夫の前では自分を出来るだけ抑える大人しい妻を好演。いかにも俺様な良多が選びそうな奥さんだなぁとカップリングのリアリティにもうんうんと頷いた。


対するもう一つの夫婦の斎木雄大とゆかりを演じるのはリリー・フランキーと真木ようこ。雄大は父親としてちょっと理想的すぎるかなと思わないでもない。こんな風に子どもと真剣に遊べるお父さんて少ないよね。それでもリリーさんの出るシーンは劇場でもよく笑いが起きてて(毎回遅刻してくるのとその言い訳とか金にがめつい発言とか)、この映画にとって大事なアクセントだった。


真木ようこも肝っ玉系母ちゃんが意外にもハマってる。意外でもないか。「これから相手の親に似てくる我が子をこれまで通り愛せるだろうか…」と窓の外眺めながら物憂げに問う良多に「愛せますよ。血だの似てるだのにこだわるのは男だけ」とぴしゃりと返すシーン、きっと良多はゆかりみたいな女は嫌いだろうな〜と思いながら見てた(笑) 


そこに物語の要となるふたりの子ども、慶多と琉晴が、ドキュメンタリー的な是枝演出によってまるで素のままのようにそこに存在し、大人たちを巻き込んで奇跡のような繊細なシーンをいくつも生み出していく。決してたたみかけるようではなく、奇跡のシーンは静かにつみ重なっていき、後半は泣けて泣けてしょうがなかった。


そしてラスト、良多が写真を見るシーン。インタビューによれば監督は削る意向だったものの真木さんらキャストの希望で復活したという。決定打のようなシーンはつくりたくなかったのかな。だけどこのシーンは本当に本当によかった。世界が反転した。「愛していた」だけでなく自分のまた「愛されていた」のだと。


ぜひまた見たい。DVD出たら買います。


余談だけど、同じ天然系であるリリー・フランキー樹木希林の絡みは最高!おっかしくてしょうがなかった。


原作本ではないけど参考文献。昔読んだのだけど今回また映画の前に再読しました。
取り違えが起きた二組の家族のその後を十数年にもわたって取材を続けた素晴らしいノンフィクション。取り違え事件の残酷さと、子どもにとって必要な家庭環境について考えさせられます。


そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

こちらは本屋でチラ読みしただけ。映画では描かれなかったけどこうなるといいなぁと思っていたラストが、このノベライズでは描かれていて嬉しかった。

ひさしぶりに。

ちょっと調べたいことがあって久しぶりに自分のブログ読み返したら驚いた。
昔のわたし…ちゃんと長文書けてるじゃん!!
最近はTwitterばかりで読書メーターの200字(?)の感想さえ埋めれない始末…。
うぅ…ダメだ……。